夢の続きをもう一度
「ねえ、キスしよう」
「ダメ、恥ずかしいよ…」
「大丈夫だよ、誰もいやしない」
僕と彼女の唇が重なる。
初めて連出しをした彼女。
初めてアポをとった彼女。
僕は、その瞬間の事をよく覚えていない。
覚えているのは、彼女の薄い唇と、細い腕を折れそうなくらい強く握りしめている感触だけだった。
某日
「お久しぶりです!」
「あれ!ずいぶん可愛くなってて、誰かわからなかったよ!ww」
「お上手ですねw」
彼女との初めての出会いから約1月。
久しぶりの再会となった。
再会のキッカケとなったのは、コーヒーのお誘いをしたことだった。
相手の快諾から、今回のアポとなった。
今回の相手は、初めて連出しに成功した子だったから、よく特徴を覚えていた。
笑顔が魅力的な彼女は、どことなく綾瀬はるかに似ていた。
なので、ここでは彼女の事をはるかと書く。
久しぶりの再会を果たした二人。
僕は当初の約束通り、コーヒーショップを目指した。
コーヒーショップでは、雑談をほどほどに、彼女の恋愛遍歴と好みのタイプなどの恋愛トークを展開することを心がけた。
元カレのことや、理想のデートのことなども話題にした。
2軒目は、イタリアンレストラン。
お酒が苦手な彼女は、ちびちびと飲んでいた。
それでもみるみる顔が赤くなる。
トークの内容は、コーヒーショップの時よりも、少しディープな恋愛話をした。
場所によっては出来ない話もある。
ラポール形成を意識していたからか、相手がどんどん話してくれる。
こちらの誘導に上手く乗ってくれるのだ。
過去の恋愛遍歴とセックスに関する話題。
いろいろ話した。
今日の彼女はいろいろ話してくれる。
楽しそうだ。
でも、少し違和感があった。
それは、彼女からの質問が無いのだ。
相手からの質問は、こちらに興味があることの証明である。
しかし、ソレがない。
大きな秘密を話してくれているのに、僕に対する興味が無いのか?
一体彼女は何を考えているんだろうか…
ずっと疑問が頭から離れなかった。
2件目を出た後、僕は彼女を連れて街を歩いた。
夜風が気持ちいい。
「手、つないでいい?」
「うん」
僕は、彼女の手を握った。
握手の形の手つなぎから、恋人つなぎへ。
彼女からの、握り返す力はとても弱かった。
嫌なのかな…
不安がよぎる。
手を離そうとする。
握ってくる。
ますます彼女のことがわからなくなる。
でも、手をにぎることが出来た。
これは、ハンドテスト合格と言ったところか。
もう時間は9時を回っていた。
そろそろ帰る時間だった。
僕は彼女と駅まで一緒に行くことにした。
「今日はありがとう、楽しかったよ」
「ううん、ほんと楽しかった。こっちこそありがとう」
人気の少ない路を二人で手をつなぎ歩く。
「ねえ、キスしよう」
「ここで…?恥ずかしいよ」
「誰もいやしないよ」
僕は彼女の唇に唇を重ねた。
冷静でいられるように、意識しながら。
彼女は笑っていた。
恥ずかしさからか、どうか分からなかったけど。
その後は、何気ない会話を続け、駅まで歩いた。
「送ってくれてありがとう、気をつけて帰ってね」
「気を付けてね!」
「またね」
そう言い残し、僕は改札を抜けた。
なんとなくだけど、もう、彼女とは会えない気がした。
改札から振り返ると、そこには彼女はいなかった。