ナンパオトコは猛虎の夢を見るか?

尊大な羞恥心と臆病な自尊心。人喰い虎と成り果てた男の物語。果たして、人に戻れるのでしょうか。

狭小邸宅を読んだ感想

狭小邸宅を読みました。

ネタバレ込みの感想文になりますので、ご注意下さい。

 

 

営業の世界は大変ですね。

世の中に楽な仕事はないのかも知れませんが、狭小邸宅に出てくる主人公は、とても辛そうで、読んでいて僕まで辛くなりました。

 

さて、狭小邸宅とは

【第36回すばる文学賞受賞作】学歴も経験も関係ない。すべての評価はどれだけ家を売ったかだけ。大学を卒業して松尾が入社したのは不動産会社。そこは、きついノルマとプレッシャー、過酷な歩合給、挨拶がわりの暴力が日常の世界だった……。物件案内のアポも取れず、当然家なんかちっとも売れない。ついに上司に「辞めてしまえ」と通告される。松尾の葛藤する姿が共感を呼んだ話題の青春小説。

出典Amazon CAPTCHA

 

 

 

物語の前半、主人公の松尾君はサッパリ家が売れません。

あまりに売れなさすぎて、上司から「もう辞めろ」と最後通告を出されてしまいました。

危機感を覚えた松尾君は、作戦を考えます。

そこで、ある作戦を思いつきました。

その作戦とは、「誰も売れないと思っている家を売ろう」というものでした。

いつまでも売れない家、その存在に自分を重ね合わせ、その家と最後を共にしようと考えたわけです。

 

松尾君はその家を売り出し続けました。

来る日も、来る日も。

ただひたすら、繰り返しました。

 

そんな思いが通じてか、松尾君は、その家を売ることに成功します。

誰も買わないと思われていた家を売った、売れない営業マン。

彼の評価は上がり、 仕事も任されるようになります。

 

ですが、松尾君の上司である、豊川課長は見抜いていました。

松尾君に足りないものを。

そして、今回物件がなぜ売れたのかも。

 

それから、松尾君は豊川課長より教えを受けます。

松尾君は力を付けていき、さらなる活躍をしていくのですが、ここから物語は大きく動き出していくのでした。

 

 

僕が、狭小邸宅を読んでいて、一番関心を寄せたパートが、松尾君が豊川課長より、教えを受けるところでした。

 豊川課長は、松尾君にダメ出しをします。

 

「蒲田(その売れない家がある土地)を売った調子でこのまま売れ続けると思うか?」

「何で自分が売れないか真剣に考えたことがあるか?」

 

このシーン、何故か僕にも刺さりました。

僕の仕事は営業ではないのにも関わらず。

 

なんだろう。

 

あ、そうか。

これって、ナンパに似てるな、と。

 

以前、ナンパと営業には親和性があると、誰かがツイートしていたことを思い出しました。

 

 

 

街中で、見知らぬ女性に声をかける。

バーで、見知らぬ女性に声をかける。

 

相手に自分を気に入ってもらえれば、連絡先を交換したり、食事に行ったり、セックスをする。

 

 

これって、営業の話に置き換えると。

家を買いたい人と、家を売りたい人。

家を売りたい人は、家を買いたい人と巡りあうまで、ひたすら営業を続けます。

家を買いたい人は、安くて良い物件を手に入れたいと思っている。

家という買い物は、一生に一度の物というのが普通でしょう。

購入するまでに、いろいろ悩むし、心変わりもするでしょう。

そこを説得して、自社の物件を売りつけるのが、営業マンの腕の見せ所。

見事契約まで取り付けることが出来たなら、大成功。 

 

 

豊川課長は、松尾君がどうして、あの手ごわい物件を売ることが出来たのかが分かっていました。

それは、「運が良かった」から。

松尾君が毎日同じ物件を売り出し、たまたまその物件を気に入る顧客が来た。

松尾君の営業手腕が良かったわけではなく、偶然売り手と買い手のニーズがマッチしただけであると。

ひたすら振り続けていたバットに、ボールが当たり、逆転サヨナラホームランが出た。

 

 

この作品には、電話で物件案内の約束を取り付けたり、サンドイッチマン(駅前や、街中で2枚の看板をひもでつないだ物を肩から下げ宣伝する人)をやる営業手法が描写されていました。

 

これは、ナンパで言うところの声掛けに似ている気がします。

 

ひたすら声をかけて、無視されて、足を止めてくれたと思っても、すぐに立ち去られる。

自分がいかに魅力のある男かどうかを売り込み、相手の興味を引き出す。

そして、連絡先を交換し、もっとうまくいけば、そのまま食事やカフェに行く。

 

ナンパって、運の要素も多くある行為だと僕は思っています。

声をかけた女性が、ものすごく暇をしていた。

自分のことが、とてもタイプだった。

 

それでも、よほどのことがない限り、ホイホイついてくる人はいません。

必ず最初は、躊躇します。

 

それをうまく説得することが出来るのが、ナンパが上手な人なのだと思います。

 

時々、運よく意中の女性と一夜を共に過ごすことが出来るときがあります。

それも、とんでもない美女と。

ただ、そうなったのは、女性の気まぐれで、自分の魅力で相手を魅了できたわけではありません。

 

自信にはなるかもしれませんが、実力は上がってませんから。

 

 

 

この作品、久しぶりに僕的大ヒットでした。 

細かい描写については、ぜひ、作品を読んでみてください。

営業マンの心理が事細かに描写されています。

もう家を買ってしまった人は、そういえばあの営業さん、こんなこと言ってた気がするな、なんて思うことがあるかもしれませんし、これからの人は、営業マンはこういう手法を使ってくるんだな、という予習になるかもしれません。

 

おわり