ナンパオトコは猛虎の夢を見るか?

尊大な羞恥心と臆病な自尊心。人喰い虎と成り果てた男の物語。果たして、人に戻れるのでしょうか。

ロシア女子とキスをした②

海外の女性とデートをする。

僕はずっと憧れていた。

でも、憧れているだけ。

何か行動をするわけではなかった。

見た目を磨く、語学を学ぶ。

 

やれることはたくさんあったのに、画面の向こうにいる彼女たちに想いを馳せるだけだった。

 

 

しかし、今。

その憧れの女性がそこにいた。

 

美しく長い髪。

大きく、美しい目。

しなやかに伸びる手足。

 

そして、特筆すべきは、透き通るような緑色の瞳。

吸い込まれてしまいそうな、その大きな瞳に、僕は目をそらす事が出来なかった。

 

 

「たいがさん?お待たせしました」

 

そう、彼女が言う。

 

「はじめまして。僕もさっき来たばかりですよ」

 

そう僕は返した。

そう、いつも通りに。

 

「写真で見たよりずっと可愛くて…すぐに分かりませんでした」

 

と、いつものフレーズも忘れずに。

 

「え…そんな事ないですよ!普通です」

 

そう、笑顔で返してくれる彼女の顔は、とても美しかった。

まるで、映画から飛び出して来たかのようだった。

 

でも、すでにこの時、僕の中に緊張感はなかった。

いつも通りに。

いつも通りに。

やっていれば大丈夫。

 

 

 

早速、僕たちは移動した。

前日までに考えたコースをたどるように移動する。

 

都内なだけに、とても人が多い。

人混みの多い場所を通るのが苦手だという彼女に配慮し、なるべく人通りが少ない道を通った。

彼女はとても近くを歩いている。

腕が当たりそうなくらい、とても近くを歩く彼女。

時々腕がが触れてしまう。

 

距離感をとるのが苦手なのだろうか。

僕は彼女を横目に、少し距離を開けるようにし、歩くようにした。

 

しばらくして、目的の場所に到着する。

彼女がとても興味を持っているマンガショップに来た。

 

「わー!すごくたくさんの本がありますね!」

 

そう彼女は眼を輝かせた。

 

「ここにある本は、実はほとんどがマンガなんだよ。他のフロアに行けば、いろんなジャンルのマンガがあるから、見に行こうよ」

 

僕は彼女を先導し、階段へ向かった。

 

「どうぞ」

 

と、彼女を先に階段へ進ませる。

 

「え・・・ありがとう」

 

彼女は少し驚き、笑顔で返してくれた。

 

 

他のフロアでも、たくさんのマンガを見て回り、お互いのことを話した。

 

どんなマンガが好き?

最近どんな漫画を読んだ?

ロシアでは、どんなマンガが流行っているのか?

 

そんな話をしながら、結局すべてのフロアを回りきった。

 

「そろそろ出ようか」

 

「はい。ここに連れてきてくれてありがとう!とても楽しかったです」

 

彼女の笑顔で言ってくれた。

 

彼女の笑顔はとても美しく、連れてきてよかったと思ってしまった。

 

 

「この後、どこか行きたいところはある?」

 

「いいえ・・・たいがさんの行きたいところへ行きましょう」

 

「そうだな・・・そろそろ夕食の時間だし、ご飯でも食べに行こうか」

 

「はい!いいですね!」

 

「近くに、美味しい居酒屋があるんだ、こっちだよ」

 

と、僕は彼女の手をとり、店への道を進む。

 

 

この時、初めて彼女の手を握った。

彼女は握り返してくる。

 

彼女の手は、小さくて、柔らかい。

僕は少し恥ずかしくて、彼女の顔を見ることが出来なかった。

 

でも、意識をしないように、今日の出来事について話しながら歩いた。

 

「ここだよ」

 

店前につき、のれんをくぐる。

 

「2人です」と迎えてくれた店員に人数を告げる。

 

「わー。素敵なお店ですね!」

と喜ぶ彼女。

 

「せっかくだから、日本っぽい店に連れて来たかったんだ」

「ありがとう。とても嬉しいです」

「良かった。これがメニューだよ。何か飲みたいものはある?」

「うーん。どうしましょう…たいがさんは?」

「僕はビールを飲もうかな。同じのでいいかな?」

「はい!」

「食べ物は?何かリクエストはある?ここは鶏肉が美味しい店なんだよ。焼き鳥って言って、とても美味しいんだ」

「うーんと…たいがさんにお任せします!今日はたいがさんにお任せしたいです」

 

僕は「分かった」といい、店員にオーダーを伝えた。

 

「うーん。とても美味しいですね!初めて食べました!」

「それは良かった」

「たいがさんは、この店に良く来るのですか?」

「ううん。今日初めてきた。君を連れてきたくて」

「そうですか。ありがとうございます!嬉しいです」

 

彼女はとても美しい笑顔をこちらに向けた。

 

「そろそろお腹いっぱいかな?」

「はい。もうお腹いっぱいです」

「わかった。それじゃ、そろそろ出ようか」

「はい」

 

僕たちは会計を済ませ、店を出た。

 

「まだ終電まで時間がある?」

「はい。まだ大丈夫です!」

「それじゃ、散歩でもしようか。夜景が綺麗な場所があるんだ」

「はい!行きましょう」

 

僕は彼女の手を取り、歩き出した。

今回は、自然に、当たり前のように。

それは、彼女も同じ。

 

自然にお互いの指が絡み合うように。

認め合うように手を繋いで。

 

 

つづく